「量は質に転化する」という言葉をお聞きになったことはあるでしょうか?
これは創作などにおいて、作品の質よりも量を重視してたくさん作り続けていくことで質も向上してくるということを表した言葉です。
まるで魔法のような方法じゃありませんか。
数多く作ることを目指してどんどん作っていく。
これなら私にもできそうに思えてきます。
そのうちに質も上がってくる。
なんと嬉しいことでしょう。
でも、ちょっと待ってください。
これって本当でしょうか?
私はちょっと疑問に思っているんですよね。
そこで今回は「量は質に転化するって本当か?」というテーマで書いてみようと思います。
私は量が「質」に転化するということには懐疑的ですが「完成度」には転化していくだろうと考えています。
では「質」と「完成度」とは何が違うのか?
私の中での定義ですが、質は上限が無いもので完成度は上限があるものです。
分かりにくいと思いますので例を挙げてみます。
陶器の器を作る職人さんが一個一個手作りで作るとします。
そのような場合は量をたくさん作るほど完成度は高くなると思います。
その器には「これが完成形だ」というお手本や見本があり、それにどれくらい近付けるかが完成度の高さということになります。
このようにゴールが決まっているもの、目指すべき理想形が明らかになっているものがあって、その完成度を高めるためであれば量をこなすという戦略は効果的だろうと思います。
しかし完成度には上限があり、100点が限界です。
101点以上を取ることができません。
どんなに頑張っても「お手本とするもの」「見本となるもの」を超える創作はできないのです。
そして見本通りに高い完成度で作れる人は腕の良い職人と呼ばれます。
次に質に関してです。
質の意味は辞書によると「良い悪いという点から見た品物の性質」だそうです。
この品物は良いというのが質が高く、その逆は質が低いということですね。
これをふまえながら先ほどの陶器の器の例で考えてみましょう。
見本となる器がそもそも大した魅力のない平凡なものであった場合、たとえ最高度の完成度で作り上げたとしてもそれは平凡な器以上のものにはなりません。
その凡庸さの殻を破って新たな価値のあるものを生み出すためには、お手本にどれだけ近付けるかに腐心しているだけでは足りないのです。
つまり次元の違う「創造性」が必要だということです。
すでに評価の定まった価値観の中で高品質のものを作っているのが職人さん。
そんな既成の評価の外側に新たな価値を作り出そうとしているのが芸術家と言えるのではないでしょうか。
そこで記事のタイトルでもある「量は質に転化するのか?」という疑問についてもう一度考えてみますと、私の答えは「否」です。
人によって「質」という言葉の定義が微妙に異なると思いますので、それによっても答えは違ってくるかと思いますが。
職人的な技術は量をこなすことで磨かれるというのは正しいと思います。
しかし芸術的な創造力は量を追求するだけで獲得できるものではなく、別の方法論が必要だと思うのです。
はたしてそんな方法論があるのかどうか私は知りませんけれども。
ですので私がまず取り組むべきことは量をこなすこと。
それによって完成度を高めていく。
それができたらその先は?
それができてから考えましょうかね。
その先にどんな未来が待っているのか、とても楽しみです。